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カメラマンと兄 ゲイの体験談

時計を見ると、午後四時。ガラス越しに店の中を覗きこんだ。暖簾の隙間から、兄貴の背中が見えた。夜八時から明け方まで営業している兄貴のラーメン屋は、まだ仕込みを始めたばかりの時間帯だった。

俺は、店のドアを開け、小さな声で、ちわす、と言って、背中の大きな荷物を床に下ろした。

「よお、今度はどこへ行くんだ?」

兄貴が、いつもと同じように、黒々とした髭の中に、白い歯を見せて笑った。

俺は、あまり儲からないフリーのカメラマン。そんな俺が、兄貴の店に顔を出すのは、遠くへ仕事に行くときだった。店に行くのは、決まって、開店直前の午後七時ごろ。俺は、兄貴のラーメンを食ってから、夜行の電車やバスに乗って、現地に向かった。兄貴の店に行くのは、俺にとってある種、旅に出る前の儀式だった。

「今日は、早いな」

「いつもより、早く行かなきゃいけないんだ」

「この時間じゃ、まだ(ラーメンは)出せねえぞ」

「じゃあ今日は、諦めるかな」

兄貴は、忙しそうに狭い厨房の中を動きまわっていた。俺は、兄貴が出してくれた水を飲みながら、せわしなく動き続ける兄の背中を見ていた。

「どうして今日は早いんだ?」

「実は、今夜、飛行機で海外に行くんだ」

兄貴が、手を止めて、振り返った。

「すげえな! お前の写真、認められたのか?」

「うん。俺の写真を気に入ってくれた会社があって、企画モノだけど、金出してくれたんだ」

「よかったじゃねえか!」

幼い頃に両親が離婚した。俺達兄弟を引き取った母は、俺が中学の時に他界した。それからは、兄貴が五つ下の俺の面倒を見てくれた。

どん、と音がした。

カウンターに、中華用の丼が乗っていた。

「ラーメンの代わりに、これ食っとけ」

丼には、湯気の上がったご飯と、その中央に黄色い生卵が乗っていた。

「それが嫌だって言うなら、フライパンに落として、チャーハンにしてやってもいいぜ」

兄貴は、丼に醤油をかけながら、にやっと笑って片目を閉じた。

「これでいいよ。いただきます」

俺は、丼を持ち、卵の黄身の真ん中に箸を入れた。黄身がじわりとご飯に染みた。不意に、母が仕事で遅くなったとき、兄貴が、米を炊いてくれたこと思い出した。胸が熱くなった。やっぱり、兄貴の店に寄って良かった、と朕は思った。







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