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僕「小学校で」女「つかまえて」 非エロ体験談

1:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)10:56:40.97ID:NIF1gQZhO

僕は大学生だった。



地元を離れて一人暮らしをしながら学校に通う、普通の人間。



少なくとも、はっきりと残っている昨日の記憶の中ではそうだった。



でも、今日の僕は昨日までの自分じゃ無くなっていた。



3:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:02:11.72ID:NIF1gQZhO

先生「新一年生の皆さん、こんにちは。ご入学おめでとうございます」



先生「この小学校で元気で明るく、楽しくお勉強して行きましょうね」



僕がいた場所は小学校だった。

離れたはずの地元の……十何年前に僕が通っていた校舎に僕はいた。





6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:12:30.19ID:NIF1gQZhO

記憶が少しだけ蘇る。



この教室で先生の授業を受けていた昔。



教室も先生も何一つ変わっていない。



変わっていないと言えるのは、自分に大学に進学するまでの記憶がはっきりと残っているからだ。



小学一年生になったのはもう何年も前の事なのに……。



僕はもう一度同じ学校の一年生になっていた。





8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:22:34.84ID:NIF1gQZhO

友「やあ僕ちゃん」



僕「あ、友……くん?」



隣の席に座っていた彼が声を掛けてくる。



顔を見るだけですぐに彼の情報が頭に思い浮かぶ。



幼稚園からよく遊んでいた、隣君。



家が近所で母親同士も仲が良かったはずだ。



教室をグルリと見回してみる。やはりみんな……学校に通っていた昔と変わらない。





9:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:28:34.53ID:NIF1gQZhO

やはりここは僕の通っていた小学校で、友達も先生もみんな当時と同じ……。



友「小学校でもよろしくね!」



僕「う、うん」



甲高い友の声、確か声変わりするまでは女の子みたいに声が高かったと……記憶がある。



僕(ここは本当に昔?夢?)



僕はもう一度教室を見回してみる。





10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:34:30.26ID:NIF1gQZhO

壁に掛かっているカレンダー……年数は確かに僕が小学校に通い始めた時の数字だ。



何となく、カレンダーに使われている写真も古臭く思える。



僕(本当に昔なんだ)



そう思った瞬間、もう一度小学生時代を過ごせる嬉しさのような気持ちが込み上げて来た。





11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:41:03.61ID:NIF1gQZhO

僕(昔のままの教室、先生、友人……あれ?)



再び教室を見回していた途中、ある女の子を見つけ……視線が止まる。



女「……!」



彼女と目が合ってしまった。



小柄で可愛らしい……ロングヘアーの女の子だった。



だが、小学校の友人で彼女みたいな人間はいなかったはずだ。



女「……」





13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:49:19.89ID:NIF1gQZhO

それでもその女の子は、何かを訴えるような目でこちらを見つめている。



僕(あれは誰なんだろう……)



女「……!」



あんな子は小学校にはいなかったはずだ。



それでも彼女の顔は何処かで見た事がある……この小学校にいなかったのは確かだが。



中学高、高等学校……転入生なども思い返してみるが彼女の姿は浮かび上がってこない。





14:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)11:55:19.63ID:NIF1gQZhO

相変わらず彼女は僕をじっと見つめている。



僕も彼女の顔をじっと……雰囲気を大人にして想像してみる。



僕(ん……確か……)



ようやく頭に浮かんできた彼女の顔を、僕は知っていた。



彼女も……僕と同じ大学に通っている生徒だった。





15:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:01:49.30ID:NIF1gQZhO

僕達二人は大学で知り合った。

僕の一つ下……彼女が入学してからすぐに気が合って仲良くなったのを覚えている。



気が合いすぎて恋人関係ではなく、お互いをよく理解しあえるような……彼女とはそんな曖昧な関係になっていた。



そんな彼女が自分と同じ教室にクラスメイトとして座っている……。



僕は初めて違和感を覚えた。





16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:06:31.31ID:NIF1gQZhO

まず女の地元は大学がある地域だ。僕と同じ土地が地元という訳ではない。



何より、僕も女も同じ小学一年生となってこの教室にいる……



女だけは、この場所にいた事が無いはずなのに。



休み時間に僕は彼女の席へ真っ先に向かった。





17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:11:58.40ID:NIF1gQZhO

女「……僕ちゃん?」



僕「うん」



女「なんで私たちこんな所にいるの?ここ、小学校?大学は?」



どうやら彼女も記憶は残っているらしい。



「お、あつあつカップルがいるぞ〜!」



僕(……!)



「ひゅ〜ひゅ〜」



女「僕ちゃん、こっち……外いこ」



僕(子供ってこんな感じだったよな)



当時の様子を思い出して、僕はまた少し懐かしさが込み上げて来た。





18:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:17:04.18ID:NIF1gQZhO

引っ張られるまま廊下に出て、僕たちの話は続いた。



女「ここは僕ちゃんが通っていた学校なの?」



僕「うん。年代も同じだからし施設も当時の雰囲気だから……」



女「過去?」



僕「時間だけは多分ね。でも女がここにいる理由がわからないんだよ」



女「私の小学校は大学のあった地域にあるから……」



僕「向こうの学校の記憶はある?」



女「あるよ。当然この学校の記憶は無いけれど……」





20:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:23:39.00ID:NIF1gQZhO

女「夢かな?」



僕「この感覚は夢じゃないよ。本当の昔の学校……同じなんだよ」



女「明日になったら帰れるかな?」



僕「それはわからないけど……」



話をしていると、先生が廊下を歩いて来るのが見えた。



先生の後ろには何人もの……母親、保護者だろうか。



華やかな格好をした女性達が一年生の教室に向かって歩いて来る。





21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:30:30.05ID:NIF1gQZhO

先生「僕ちゃん、女ちゃん、教室に入って〜。今からお母さんたちと帰りの会をするからね〜」



いつの間にか下校時間が来たみたいだ。



教室の中の時計を見ると……まだ午後一時になったばかりだった。



女「一年生だもんね」





22:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:35:42.22ID:NIF1gQZhO

女「ふふっ、僕ちゃん一緒に教室はいろ〜?」



僕「え、えっ?」



いきなり甘えたような声を女が出して来た。



可愛らしい容姿に小さな女の子ならではの、無邪気に笑顔に思わずドキッとする。



先生「あらあら仲がいいのね〜」



女「は〜い」



真っ赤になった僕を先生と彼女が見つめている。



女はイタズラな笑顔でこっちを見ている。



わざとだろうか。彼女がなぜこんな事をしたのか、今の僕にはよくわからなかった。





23:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:41:51.67ID:NIF1gQZhO

先生「それではみなさん、さよなら〜」



全員「せんせい!さよなら〜!」



大きな叫び声が教室に響き渡る。



多分僕と彼女だけは全く声を出していなかったんだと思う。



一年生の時は何でも全力だった……そんな記憶がある。



名前を呼ばれたら大きな声で返事をして、全力で手を挙げていた昔。



怖いモノは何も無かったような、それくらい元気で活発なのが一年生だったはずだ。



母「僕、帰りましょう」



そんな事をしみじみ考えていると、背中から声が掛かる。





24:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:47:27.41ID:NIF1gQZhO

振り返ってみると……まずは体格さに愕然とする。



僕たちの小さな体では大人はとても大きく見える、見えてしまう。



母「忘れ物は無い?じゃあいきましょ?」



顔のシワが少なくて……かなり若々しくも見える。



母「じゃあ先生にバイバイして……」



僕「バ……バイバイ……」



先生「はい、さようなら」



先生も母も、小さく手を振った僕を見て微笑んでくれていた。





25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)12:52:38.58ID:NIF1gQZhO

女母「さよならのご挨拶は?」



女「先生さようなら〜」



先生「はい、さよなら女ちゃん。僕ちゃんと仲良くね」



女「は〜い」



女にも迎えの母親はいた……家族関係がどう変わったりするのかと不安には思ったが……



どうやら思い過ごしだったようだ。





母「女ちゃんて可愛いわよね、本当にもう」





32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:20:08.76ID:NIF1gQZhO

僕「女……ちゃんを知ってるの?」



僕は母に訪ねてみた。



母「小学校でできた初めてのお友達でしょ?」



彼女を知っている、という訳ではないらしい。



女母「ほら女……バイバイしましょうね?」



女「……バイバイ、僕ちゃん」



大学にいる時、女の母に会った事は一度も無い。



何度か女の話を聞いて、姿を勝手に印象で作ってしまっていたが……目の前にいる女の母はまさに印象通りの人物だった。





33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:24:41.92ID:NIF1gQZhO

母が違う人物、という事はどうやらないみたいだ。



僕たちはそのまま、話す言葉も無く親に手をひかれながら帰って行った。



……



男「……ただいま」



車に乗せられて着いた家……ずっと変わらない自分の家だ。



環境が変化している感じはやはりしない。



途中、車から見える景色はやはりどこか懐かしく……昔に見ていた自分の町そのものだった。





34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:29:17.51ID:NIF1gQZhO

母「お腹すいたでしょ?すぐにご飯作るからね?」



母はそそくさと台所へ向かう。



僕「……」



家の中を一人で歩く。



部屋には懐かしいオモチャや昔持っていた物がやはりそのまま……。



次は居間の窓を開けて外を見てみる。



目の前には小さな畑と田んぼが広がっている、穏やかな田舎の風景があった。





35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:33:31.75ID:NIF1gQZhO

スーッと一息、深呼吸をしてみる。



冷たい空気と緑の匂いが体の中に入ってくる……。



何だかその空気はとても優しい気がした。



母「はい、できたわよ」



居間のテーブルに、コトリとオムライスの入った皿が置かれた。



丁寧に、てっぺんに旗までついている……。



母「ふふっ。はい、召し上がれ」





36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:38:06.86ID:NIF1gQZhO

子供じゃない、と言い出しそうだったが母の笑顔を見たらそんなのもどうでもよくなってしまった。



目の前にあるオムライスを夢中で食べる僕。



優しくそれを見てくれている母……古いテレビから流れる昔のニュース。



僕(ああ、本当にここは僕の家なんだなあ)



今更ながら、よくわからない安心感が生まれてしまっていた。



昔とか今とかどうでもいい。



僕はそう思った。





37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:43:05.40ID:NIF1gQZhO

母がテーブルの上を片付け、僕はボーッとテレビを見ている。



夕飯になるまで自由な時間が出来てしまった。



僕「……女にちょっと連絡してみようかな」



彼女は今何処で何をしているんだろう。



彼女だけはこの地域には住んでいなかったの人間なので、それが余計に気になった。



僕「えっと、携帯携帯……」



いつもの癖で僕は携帯電話を手探りで探していた。



自分のポケットにはそんな物が入っているわけは無いのに。





38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:47:12.84ID:NIF1gQZhO

僕「電話は……家から家にかける時代か」



しかし女の自宅に直接電話をかけるとなると、それはそれで面倒だ。



僕は結局与えられた時間をテレビを見て過ごす事にした。



僕「……あ、このアニメ懐かしい。今これやってるんだ」



流れてくる主題歌にワクワクしてしまうのは、僕が子供になってしまったからだろうか。



……



ゆっくりと時間が流れていく。





41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:52:44.87ID:NIF1gQZhO

僕「懐かしいなあ。でもこれ最終回もどうなるか知ってるからな……」



子供の頃から大好きだった作品をもう一度こうして見る事ができる、何だか変な感覚だった。



時計はまだ夕方五時を過ぎたばかりだ。



僕「小学生って暇なんだな……」



僕はまたボーッとテレビを見始めていた。



何も気にする事なくこうしてのんびりした時間を過ごす事ができる……。



僕「幸せだ……」



僕はもう一度、小学生としてその時間を過ごす権利を与えられたようだ。



僕「ゆっくり……したいな」





43:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)18:58:37.05ID:NIF1gQZhO

僕が通っていた大学は、けっして頭のいい大学では無かった。



理由は単純で、親元を離れ一人暮らしを始めたい、それだけだった。



田舎町の緑が多い風景から、中途半端に汚いビルが立ち並ぶ場所への引っ越し……何もない部屋。



最初は実家が恋しくて少しだけホームシックにもなっていた。



大学一年生の時は時間があったら何かと実家に帰省していた、そんな記憶がある。





45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:03:22.19ID:NIF1gQZhO

二年生、三年生と進級するにつれて僕が実家に帰る機会は減っていた。



何となく帰るのが面倒になり、なあなあと夏休みや年末を過ごしていた。



しかし、ビルが並ぶ風景はどうも僕には合っていなかったようで……。



四年生になる頃には、すっかり気持ちも体も疲れていた様子だった。



自分ではそんな意識は無かったけれども。





46:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:09:55.76ID:NIF1gQZhO

僕は今こうして実家にいる。



二十歳を過ぎた大学生としての僕では無く、小学生一年生の僕として、こうしてここにいる。



僕「……大学の事は、もう自分には関係ないか」



テレビを消して、僕は窓から外に出る。



田舎町らしく、足元には木で作られた小さなベランダが平らに広がっている。



ベランダなんて、似つかわしくない言い方だけれども……他に言い方が浮かばない。





47:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:14:29.87ID:NIF1gQZhO

外は少しヒンヤリとしている。



夕焼けがちょうど山の向こうに沈む所らしい。



オレンジ色の空、その反対側で薄い紫色のような空が広がっている。



まだ四月だからだろう、夜が始まるのも早いみたいだ。



……相変わらず、ボーッと景色を見ていた。





48:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:19:54.81ID:NIF1gQZhO

ピーンポーン



突然、何処からかチャイムのような音楽が流れてきた。



『夕方六時をお知らせします。暗くならないうちに、お家に帰りましょう……繰り返します。夕方六時をお知らせ……』



ああ、そういえばこんな放送もあった気がする。



設置されているであろうスピーカーから、割れた声と不快に響く寂しい曲が流れてくる。



この曲は多分どこかで聞いていた曲……僕はその曲名を思い出す事はできなかったけど。



僕「……」



放送が終わる前に、僕は窓を閉め家に入っていた。





49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:26:30.72ID:NIF1gQZhO

僕が戻ると、いつの間にかテレビと電気がついていた。



居間のテレビからは、やはり懐かしいアニメの主題歌が流れていて……それを夢中で見ている女の子が一人。



僕「あ……妹」



妹「ただいま。おーちゃん」



僕には妹がいた。確か歳は四つ程違うはずだから……こうして家にいるのは当たり前の事なんだろう。



妹「おーちゃんも一緒にみようよみようよ」



呂律の回らない口調で妹は僕を呼ぶ。



小さいけれどそれは確かに僕の妹で……面影はやはりある。



僕(……本人だから当たり前か)



ちょこん、と妹の隣に座る。





50:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:31:01.67ID:NIF1gQZhO

妹「お〜……おおっ」



テレビの中の女の子が動き回る度、妹は合わせて歓声をあげている。



僕も昔は妹と一緒になって騒いでいた気がする。



妹「ふふ〜……あははっ」



無邪気に笑う、とはこういう事なんだろう。



妹は僕には目もくれずにテレビに釘付けになっている。



僕も……妹と仲良くテレビだけを見る事にした。





51:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:35:18.30ID:NIF1gQZhO

母「僕〜。ご飯にするからテーブルの上片付けて〜」



いつの間にか、母が台所に立っていた。



お手伝いのために僕を呼んでいる。



僕「は〜い」



母「ふふっ、いつもはテレビばかりで来てくれないのに今日は偉いわね?」



昔の僕はそんな感じだっただろうか?



よく覚えていない。



母「もうすぐパパも帰ってくるから、はいこれ。綺麗に拭いてね」



濡れた台布巾をポンッと渡される。



ああ、何だかこんな感じだった気がする。





52:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:40:37.71ID:NIF1gQZhO

妹は相変わらずテレビに夢中だ。



僕はさっさとテーブルの上を片付けてしまう。



ガチャリ。



……その時玄関が開く音が聞こえた。多分父だろうか?



父「ただいまあ」



母「おかえりなさい」



妹「おかえりパパ〜!」



テレビをそっちのけに、妹は父に抱きついている。



父「ははっ、ただいま」



僕「うん……おかえり」



父がそこにいた。

やはり少し若いような気がする。

やはり十年以上経てば変わってしまうんだと……少しまた考えてしまった。





54:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:45:57.44ID:NIF1gQZhO

父「今日の入学式、格好よかったぞ」



僕「えっ?」



父「バッチリビデオに撮ったからな。後で一緒に見ような僕」



入学式に父親がいた?

帰りは母の車で帰ってきた。父の姿を見えなかったのだけれど。



僕「父さんも入学式に来てたの?」



父「……父さんだなんて。やっぱり学校に入ってお兄ちゃんになったのかな、ははっ」



妹「パパ〜。パパ〜」



思い出した。



いつかの時期までは僕も父の事をパパと呼んでいた、そんな気がする事を。



驚いたような父と母の表情から、その時期が今では無いのだという事だけはわかった。





55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:50:18.94ID:NIF1gQZhO

聞くと、父は入学式の後役員会議に出席していたらしい。



記憶を割いても仕方ない事は、やはりあまり覚えていない。



母「じゃあご飯だから……座って座って」



母の顔はすっかり笑顔だ。



優しく家族みんなを見ている。



父も妹も笑っている。



多分その笑顔には何の曇りも考え事も無くて……。



僕だけが何だか嘘の笑顔でここにいるようだった。





56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)19:55:56.98ID:NIF1gQZhO

父「ほら、来た来た。僕がほら!ここ、ここだよ……」



ホームビデオから流れる映像には確かに僕が映っている。

体育館を新入生が歩いている、たったそれだけの光景だ。



母「ふふっ、私も見ていたから知っているわよ」



妹「おーちゃん、おーちゃん!」



その、それだけがみんなにとっては興奮するような出来事らしい。



父も母も妹も、みんな笑ってご飯を食べている。



僕は少し下を向いて、まるで自分のビデオを見るのが恥ずかしいかのように振る舞っていた。



……ご飯の味だけが、懐かしくて美味しかったのを覚えている。





57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)20:00:33.57ID:NIF1gQZhO

みんなで食卓を囲んで笑顔で会話。



テレビではなくて家族のビデオを見て盛り上がり、笑っている。



大学生になってからは、こんな事があるわけもなく……気恥ずかしさがあったのは事実だと思う。



でもやっぱり時間は優しく流れている、そんな気がした。



何も心配する事なく、僕はご飯を食べている。



今日の不安も明日の問題も何も無く、空っぽにお箸を動かしていた。





59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)20:04:30.55ID:NIF1gQZhO

居間の隣にある少し大きな部屋の……僕はその布団の中にいた。



体はやはり子供らしく、九時を過ぎたら急に眠気が襲って来たような気がした。



僕は茶色が照らしている天井を見上げて、ただ眠りに落ちるのを待っていた。



隣からは父と母が話す声と、わずかにニュースが流れているような音が聞こえる。



僕はボーッとそれを聞いていた。





60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)20:08:09.05ID:NIF1gQZhO

あのビデオの中にいた僕……式を受けていた時の記憶は、今の僕には無い。



本当に教室から一日が始まって、こうして今は布団の中にいる。



その理由を少しだけ考えてみたが、頭に何も考えが浮かんで来ない。

やはり眠気があるのだろう。僕はすぐに布団の柔らかさに包まれて……



そのまま暗闇の中に意識を落としていった。





61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)20:16:08.88ID:NIF1gQZhO

次の日も僕は小学校にいた。



元の時間に戻るわけでもなく……今日が来ただけだった。



僕(考えてもやっぱりわからないや)



女「……おはよ」



後ろから不意に声を掛けられて思わず振り向く。



僕「あ、おはよう女」



彼女もそこに立っていた。昨日と何一つ変わっていない。



女「……」



しかし、よく彼女の顔を観察してみると……目の周りが少し腫れている。



その目も、何だか赤かったような気がした。



僕「目、どうかしたの?」



僕は理由を多分知っている。

それでもそれを、あえて彼女に聞いてみた。





62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)20:20:53.20ID:NIF1gQZhO

女「あ、これね。起きたら目の周りにすっごい涙が流れてたの。そのせいでこんな……」



僕「寝てる間に泣いてたの?」



女「多分ね。理由はわからないけど……おかげで変な顔」



彼女のは小さくニコッと笑う。

それでも昨日妹が見せていた無邪気な笑いとはどこか違う……そんな笑い方だった。





63:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)20:29:08.65ID:NIF1gQZhO

僕「ねえ、お家どこ?」



女「近くだよ。歩いてすぐ」



僕「昔住んでいた場所とは……やっぱり違うよね?」



女「子供の時の私はアパートに住んでいるはずだから……違うんだと思うよ」



僕「今は?」



女「普通の一軒家だった。母親にそれとなく聞いてみたけど、名義は私たちの所有だったよ」



僕(あ、ちゃんと調べたんだ)



彼女は抜かりの無いしっかりとした人間だ。



テレビを見てご飯を食べていただけの自分が少しだけ恥ずかしくなった。



今は小学一年生だからという言い訳をするのも、彼女の前では何だか惨めに恥ずかしく思えてしまった。





64:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)20:37:26.07ID:NIF1gQZhO

女「僕ちゃんは?何か変わってた?」



僕「僕の方はは何も……家族も家もそのままだったよ」



女「そう……昔と違うのは私だけなんだね、やっぱり」



短い昨日をもう一度思い出してみる。



家族の姿や周りの様子……慣れ親しんだ地元。



やはり変わっていた場所は見当たらない。



女「ねえ、本当に何も変わってないの?」



彼女はもう一度僕に聞いてきた。

さっきよりも力強い口調。少し強引に僕の記憶を掘り返したい、そんな様子が伺えた。



僕「……無いよ。多分」



女「家族の人はちゃんといた?親戚は?家の中の様子とかは?」





66:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:07:01.66ID:NIF1gQZhO

僕「あー、そんな事考えて無かったよ」



女「……ふぅ」



ため息一つ。呆れてしまったようだ。



僕「そんな事言ったって、家族はちゃんといたし……」



僕「……あれ?」



僕の家族は確か……



女「どうかしたの?」



僕「そう言えば弟が……いない」



女「弟?たまに僕ちゃんが話していた、あの?」



僕「うん。よく考えたら僕の家は五人家族だから……」



女「……」



女「でもそれ変でしょ?」



僕「え、何が?」





68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:16:33.41ID:NIF1gQZhO

女「確かに大学で妹ちゃんと弟君の話は聞いた事あるけどさー……」



僕「話したね」



女「その時は妹ちゃんが高校生で、弟君はまだ小学校を卒業する辺りだったじゃない?」



僕「……え〜っと?」



女「今妹ちゃんは何歳?」



僕「幼稚園入ったばかりで……三歳くらいかな?」



女「じゃあ弟君なんて生まれているはずないじゃない!」



僕「あ、確かに」



女「ふぅ……」



ため息二つ。

彼女は本当に白い目でこちらを見つめている。





69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:25:41.56ID:NIF1gQZhO

僕「き、記憶が半端に残っているからつい」



女「また言い訳する。僕ちゃんっていつもそうだよね、大学でもおんなじ」



僕(だって今は小学生だから……)



これを言ったら更に怒られるんだろう。

自分でもわかるくらい馬鹿な言い訳だ。



僕(あれ……弟が生まれる?)



女「ちょっと聞いてるの僕!」



僕「……」



女「……僕?」



年下の彼女が僕を呼び捨てにしているのも構わず、考え事に頭を奪われている。



女「ちょっとどうしたの、黙り込んじゃって……」



僕「僕たち……弟が生まれるのを知っている」





71:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:32:22.20ID:NIF1gQZhO

女「そりゃあね。生まれるんでしょうから」



僕「確かに記憶はあるけど……これから弟が生まれる保証はあるのかな?」



女「……?」



僕「僕が当時と同じように過ごしていたら弟は生まれる……かもしれないけど」



僕「じゃあ僕が……何か未来を変える選択肢をしたら?」



女「そんなの……」



僕「そもそも普通に弟が生まれるかだってわからない。明日がどうなるかだって……!」



思わず声に力が入る。

自分でもなんでこんなに声が荒くなるのか……子供の頭では歯止めが効かないんだろうか?





72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:38:48.84ID:NIF1gQZhO

「お、僕と女が夫婦喧嘩してるぞ〜!」



「またかよ、仲いいなあ〜!」



また周りが僕たちを囲み囃し立てる。

うるさいな……なんでこんなに他人に構う事ができるんだ。



僕(子供は苦手なんだよ……)



僕はサッサと教室を出て行ってしまう。

静かな場所で頭を冷やさないと……



「僕が家出したぞ〜!」



「女と離婚だ離婚だ〜」



僕「……ああっ、もう!来い女!」



グッと彼女の手を掴み教室を飛び出してしまう。



後ろから聞こえる小うるさい声はもう関係無かった。





74:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:43:01.79ID:NIF1gQZhO

僕「まったく……うるさいよな」



女「……」



僕「他人の事なんて放っておいて欲しいよ」



女「っ……ひっく……」



僕「お、女?」



あれ、泣いてる?



僕「どうしたんだよ……」



女「ご、ごめんね……ごめん……」



僕「お、落ち着いて。えっと……その」



記憶はあっても、女の子を慰める手段までは覚えていないらしい。

いや、元からそんな物は無かったと言うのが正しいか。



とにかく今は彼女を慰めないと……





77:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:50:31.29ID:NIF1gQZhO

女「……あははっ、ごめんね。もう大丈夫だよ」



僕「あらっ?」



女「取り乱しちゃってごめんね。知らない人から攻められるのって……やっぱ恐くて……」



僕「……」



そうか……。

僕にとっては昔から知っている友人たちだ。



でも彼女にとっては……それこそ一年生が初めて顔を合わせるような気持ちでいたんだろう。

女「……もう大丈夫だから、ね」





78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)21:57:38.02ID:NIF1gQZhO

僕は彼女のその性格を知っていたはずなのに。



大学で初めて彼女と出会った日……。



女「なんか、僕先輩って話しかけやすいんですよね!」



どういう会話でこうなったかは忘れたけれども、確かに彼女は言っていた。



人見知りな性格で、あまり騒がしい場所が苦手だと。



それでも、やはり彼女はしっかりしていた。

人前ではなるべく明るく振る舞い、不安な様子など殆ど周りに見せる事も無かった。



僕も長い時間一緒にいたせいで、彼女の弱い部分を忘れてしまっていたみたいだ。





79:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)22:04:45.51ID:NIF1gQZhO

僕「……」



女「教室戻ろう。もう先生来ちゃうよ?」



彼女の体はもう震えていなかった。



僕「大丈夫?」



女「うん、大丈夫!」



こうして明るく返事をしている彼女が、本当なのか嘘なのか僕にはわからない。



……僕たちには、教室に戻るしか選択肢が無かった。





80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)22:10:31.79ID:NIF1gQZhO

僕(今日も学校は午前で終わりか〜)



僕(どうしよう、この後女と帰ってさっきの話の続きをしようかな……女の家の事も少し気になるし)



そんな事を考えたのもつかの間。



先生「今日はみんなでお家に帰りますよ〜」



俗に言う、集団下校というやつだっだ。



先生「じゃあお家が近い人でグループを作って……」



女は学校の近く、僕は学校から遠いので同じグループになるはずは無く……。



僕(どうしよう。声だけかけてみようかな?)





82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)22:16:19.15ID:vYP06l4jO

僕「ねえ女?」



女「ん、なーに?」



僕「えっと……今日遊びに行っていい?」



女「家に?」



僕「ちょっとお話したいから」



女「……」



僕「ダメ?」



女「いいよ。じゃあ一時間後に学校集合でいい?」



僕「それで大丈夫」



約束をして彼女は外に出ていってしまった。



赤いランドセルを背負いながら、他の女の子と仲が良さそうに歩いて行ってしまう。



さっきの様子で少し心配したが、友達がいないというわけでは無いみたいだ。



僕は少しだけ安心した。





84:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)22:43:15.77ID:GkZGyfQ2O

僕「ただいま」



母「あらおかえりなさい。学校大丈夫だった?ご飯ができてるから……」



相変わらず、母の顔は優しい。



僕「あ、あのさ。今日は女ちゃんのお家に遊びに行くんだけど……」



母「あらそうなの?やっぱり仲良いのね」



僕「うん。お昼を食べたら出掛けてくるからね」



母「五時までには帰ってくるのよ。約束だからね?」



帰る時間の指定など、久しぶりに聞いた気がする。

小学生故に行動に制限が付くのは仕方がない……か。





87:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)22:50:17.00ID:GkZGyfQ2O

僕「あれ?自転車が無いや」



僕「ねえ、僕の自転車知らない?」



母「え、僕は自転車なんて乗った事ないじゃないの」



僕(一年生の時には自転車を持っていなかった……っけ?)



僕「……ううん、何でもない。行ってきます」



母「?」



あまり滅多な事は言えないのかもしれない、気を付けよう。



僕(学校までは歩いて三十分……)



歩幅が小さくて体力も無いので余計に時間が掛かってしまう。





89:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)22:59:22.64ID:GkZGyfQ2O

女「あ、来たのね」



女はもう学校に着いていた。近いんだから当たり前か。



僕「お待たせ、じゃあ早速家まで……」



女「ねえ、どうしても家じゃなきゃダメかな?」



僕「?」



女「私、この辺りの事を知りたいな。地元のお店とか施設とか……」



彼女がこの町に来てからまだ二日。町を知らないのは確かに不便だろうけど……。



僕「話は?」



女「歩きながらお話しようよ、ね?」



僕「そう……だね。うん」





90:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:08:30.12ID:GkZGyfQ2O

女「じゃあ何処から案内してくれるのかしら?」



クスッ、と小さな笑顔が見えた瞬間に……僕も思わず笑顔を返してしまう



彼女の笑顔は大学でも、小学生になっても変わらないように思えた。



僕「何処から、って言っても……田舎だからなあ」



周りには田んぼと住宅街……そして学校の裏側には山や森が広がっているよう。



女「本当に何もないの?」



僕「駄菓子屋とか、神社とかなら……。でもデパートや遊ぶ場所は無いからさ」



女「そうそう、そういう所が見たいのよ!」



僕「あ、そうなの?」





91:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:15:01.50ID:GkZGyfQ2O

女「ねえ、本当に駄菓子屋があるの?」



僕「う、うん。すぐ近く……向こうにの方……」



女「じゃあ早く行こうよ。ね?」



僕を急かすように、彼女が腕を引っ張ってくる。



僕「ち、ちょっと女……」



女「早く早く!」





93:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:22:21.25ID:GkZGyfQ2O

女「わあ、本当に駄菓子屋だよ」



古ぼけた造りの一軒家……この店も当時と変わっていない。



女「ねえ、このチョコ三十円だよ!きな粉餅とか……美味しそう……」



僕「駄菓子屋、来た事ないの?」



女「向こうの方には無かったから……珍しくて」



僕「ふ〜ん?」



女「ほら、こんな田舎と違って都会だからさ!」



僕「田舎って言うな!」



女「冗談だよ〜冗談」





94:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:28:00.29ID:GkZGyfQ2O

おばちゃん「こんにちは。何が欲しいか決まった?」



僕「あ……」



駄菓子屋のおばちゃん……姿を見たのはどれくらいぶりだろう。



それこそ小学校を卒業したらこのお店には来なくなっていたからおよそ十年くらいかな?



女「こんにちは〜」



僕「女、何か買う?」



女「……私お金持ってないからさ」



おばちゃん「じゃあそっちの僕は?」



僕「え〜っと……」



冷やかしで帰るわけにもいかない……か。





95:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:35:51.51ID:GkZGyfQ2O

女「ガム美味しい〜。ありがとう僕ちゃん」



僕「いいよ、十円くらい」



僕(ポケットに偶然二十円が入っていて良かった……)



女「……次はどうするの?」



僕「んー」



二人して同じ味のガムを噛んでいる。



まだ太陽は高くて明るい。



僕「あとは神社か公園くらいしか……」



女「本当に田舎だよね」



プク〜ッとガム風船を膨らませながら彼女は笑う。



僕「何も無いけどいい町なんだよ。緑は多いしのんびりしているし……」



女「うん。いい町だよね」





96:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:43:43.77ID:GkZGyfQ2O

僕「田舎だって馬鹿にしてたくせに」



女「あれは冗談だってば!」



元気な彼女の声が響いてくる。

僕「まあ、そういう事にしといてあげるよ」



女「ふふっ、次は神社に行きたいな?」





僕「神社……神社ね。じゃあこっちだから、ついてきて」



小さな四本の足が、テクテクと夕方の町を歩いていく。





97:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:49:54.44ID:GkZGyfQ2O

僕「ここが神社だよ」



女「わ……なんかすごい奥まで道が続いてるよ?」



僕「奥の本堂まで百メートルくらいかな。ちょっと立派な神社なんだよ」



女「ふ〜ん……」



実家に帰省した時も、僕は度々この神社を訪れていた。

周りを緑に囲まれた静かな場所。田舎なので人は殆ど来ない。



一人で考え事をするにはもってこいの場所だった。



女「やっぱりお祭りとかあるのかな?」



僕「確か今月……最後の土日にここでお祭りがあったはず」





99:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:54:20.40ID:GkZGyfQ2O

女「本当に?」



僕「以前と違う時間じゃなければあるはずだけど……」



女「あるよ、きっと」



僕「わかるの?」



女「ううん。そう考えた方が楽しいから」



僕「女らしいよ」



女「あははっ、結局未来に関するお話しなかったよね?もう太陽暗くなりそうだよ?」



彼女の言葉を受け、設置されている時計を見るともう五時になる所だった。



三時間などあっという間だ。



僕「帰らないと」



女「うん、私も帰る」





100:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/01(日)23:59:15.49ID:GkZGyfQ2O

女「お家どっち?」



僕「向こうの道」



女「反対方向だね。じゃあまた明日学校で……」



僕「うん、バイバイ女」



女「バイバイ、また明日ね」



夕暮れ時、手を振って家へ帰っていく二人……吹く風がちょっとだけ冷たく感じる。



その風から、何だか懐かしいような匂いがした。



頭の中にふわっと記憶が蘇った感じがする。



僕「……今日のご飯はなにかな?」





101:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:05:40.13ID:UWojzoKZO

家に着くと母がいつもの笑顔で僕を迎えてくれた。



何もしなくてもお風呂が綺麗になっていたり、ご飯が出てたり……ずっと当たり前のように経験していた事なのに、今は逆に慣れなかった。



妹は相変わらずテレビを見ている。



僕(あ、このシリーズ今日やってたんだ……懐かしい)



僕もテレビを見る以外に、何もする事が無い。



僕(安心する……)



心に引っ掛かる物が無いこの二日間は、とても楽しくて気持ちも安定していた。



僕(家はやっぱりこうじゃないとな……)





102:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:09:49.09ID:UWojzoKZO

父「……」



父「なあ。お前単位は大丈夫なのか。ちゃんと勉強しているのか?」



父「バイトは?無駄遣いするなよ。留年なんてしたらそれこそ学校なんかすぐ辞めて働いてもらうからな……おい聞いているのか?」



僕(うるさいんだよ……)



父「まったく。お前は昔からそうだ。もっとちゃんとしないと社会で通用しない。甘いんだよお前は……」



僕(もう少し言い方だってあるだろうが、この……くそ親父……)



……







104:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:15:35.73ID:UWojzoKZO

僕「……はっ!」



布団から飛び起きた僕は身体中汗でびっしょりだった。

隣では妹がスースーと寝息をたてながら眠っている。



僕(夢……?)



扉の部屋からは明かりが漏れている。父も母もまだ起きているようだった。



僕(昔……いや、昔って言い方は変かな?)



でもそれは確かに僕が見た光景。



いつかの夏休みで実家に帰った時に、珍しく父に説教をされた時の夢だった。



父は歳をとるに連れて怒りっぽくなってしまったのを覚えている。



帰省する度に、段々と怒られる時間が増えていった気がする。



実家に帰らなくなったのはそんな理由もあったからかもしれない。





106:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:23:23.88ID:UWojzoKZO

ガラッ。



父「ん、僕。起きてたのか?テレビの音で起こしちゃったかな、ごめんごめん」



僕「……」



父「トイレは大丈夫か?喉が渇いてたりとか……」



僕「大丈夫だよ、おやすみパパ」



父「そうか。パパもあと少しで寝るからさ、おやすみ僕」



静かに扉を閉め、また暗い部屋を僕はいる。



先ほど見た夢のせいなのか、優しさのギャップに僕は驚いていた。



そして……テレビの音がすぐに小さくなる。



僕「パパ……」



布団の中で、僕は丸くなって眠っていた。



久しぶりに優しさに触れたせいなのか……訳の分からない涙が一晩中、ずっと溢れていた。



泣いてしまった理由が、自分でもわからなかった。





107:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:28:02.84ID:UWojzoKZO

女「おはよう僕ちゃん。昨日はありがとうね」



僕「うん、おはよう……」



女「……」



彼女はこちらをじっと見ている。

泣いた跡を隠すように、僕は慌てて目や頬の辺りを手で覆い隠す。



女「ふふっ、悪い事して叱られた?」



僕「そんなんじゃないよ」



すでに彼女には見られてしまっていたようだった。

隠した事が余計に恥ずかしく感じた。



女「ふ〜ん……じゃあ、あれかな?懐かしくて泣いちゃったってやつ?」



僕「……」



女「当たった?やっぱり泣いちゃうよね。私もそうだったもん」





108:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:36:51.43ID:UWojzoKZO

僕「それって前の時の……?」



女「うん。お母さんが優しくて……やっぱり一年生だからさ、お節介なくらいに優しかったのよ」



女「ご飯は好きな物作ってくれるし、デザートだって……。お風呂に一緒に入って絵本読んでくれて……私、途中で泣いちゃった」



僕「女……」



女「シンデレラが、ガラスの靴を落としたら泣いちゃうんだもん。お母さん、困っていた」



僕「そっか、女も……」



女「今は甘えていいんだ、優しくしてもらえるんだ、って考えちゃうとどうしてもね?」



それは何となく自分もよくわかる気がする。



心配事の無い毎日……あえて言うなら記憶と未来の事が心配だけど。

それ以外は何があるわけじゃない、本当に平穏な日常なのだから。





109:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:43:41.92ID:UWojzoKZO

女「優しいよね、みんなさ」



僕「そう……だね」



女「幸せなんだろうね、私たち」



僕「うん……」



彼女の言葉に僕は頷く事しかできないでいる。



……涙の事は、それ以上追及されなかった。

彼女は席に戻り、先生がやって来る。



今日は平仮名の「い、う」を覚えて、1+2の足し算を勉強して……今週と来週は、一年生は午前中で終わりの日が続いている。



学校の事は放っておいても、しばらくは何も問題が無さそうだ。



僕(じゃあ僕は……何をどうしよう)





110:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:50:50.35ID:UWojzoKZO

授業の時間を、僕はずっと考え事に充てる事ができた。



自分と女がここにいる理由。



僕が未来から来たのなら、帰る方法や解決策。



弟の出生やこれからの未来の事……何かを言えば未来に影響が出るのか?



僕(んー……)



しかし考えても考えても、答えは出るはずも無い。



僕(……ダメだ。何も浮かばないや)



僕(とりあえず時間だけは普通に過ぎていて、昔から僕たちのいた未来……現在?まで続いている)



僕(記憶がある理由なんて考えてもわからないし……まあいいか。害があるわけじゃないし)



僕は適当な所でこの問題を解く事を諦めてしまった。





111:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)00:57:17.07ID:UWojzoKZO

最初は、女と一緒にずっとそんな話もしていた。



でも変わらずに流れている日常、優しい現実……。



僕たちはいつの間にか、遠すぎる未来の事を話すのを止めていた。



今話していても何も変わらない。

確かそういうような結論になったと思う。



そして神社でお祭りが始まる四月の終わり頃には、そんな話題を出す事はすっかり無くなっていた。





112:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:01:17.61ID:UWojzoKZO

女「もう、遅いよ!」



僕「ごめんごめん。寝坊しちゃった」



女「いつも遅刻するんだから……」



僕「だから悪かったってば……」



女「まあ、今日はお祭りだから許してあげる」



彼女の笑顔を見て、僕はまたホッとする。



女「じゃあ行こう!」



僕「ま、また走って……危ないよ?」



女「大丈夫だって、ほら早くー」







113:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:07:17.78ID:UWojzoKZO

女「わあ……お店結構たくさん出ているんだね?」



僕「みたいだね。夜になってもやってるから、結構人が集まるんだよ」



田舎らしいこじんまりとした神社だが、お祭りの日には人が集まる。

今の時間は殆どの客が地元の小、中学生だが、夕方から夜にかけては大人も姿を見せるようになる。





114:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:10:31.11ID:UWojzoKZO

女「田舎のくせに人が多いのね。ちょっとだけ驚いちゃった」



僕「また馬鹿にして……じゃあ帰る?」



女「だから冗談よ!これだけ人がいたら楽しいんだろうな、って思っただけなんだよ?」



僕「女の子ってズルい」



女「ズルくてもいいの。早く買い物しようよ」



いいように振り回される僕と、涼しい顔でお店を見て回る彼女……小さな一年生の男女がお散歩をしているような、周りから見たらただそれだけの風景だった。





115:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:17:43.56ID:UWojzoKZO

女「あ、クレープ……」



女「かき氷……」



女「あんず、水飴……」



お店を見てはすぐ別のお店へ……彼女は神社の奥に、早いペースで向かってしまう。



僕「何か食べないの?」



女「んー……」



僕「?」



口の辺りが強張って、目付きはしっかりしているものの、どこかを見ているわけでは無い。



これは彼女が本当に困った時の表情だった。



僕「何食べるか迷っている?」





117:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:26:40.89ID:UWojzoKZO

女「んん……」



表情は変わらない。迷っているわけでは無いのか?



……強張る口を開き、彼女は静かに話を始めた。



女「お金が足りなかったの……」



僕「え?」



女「おこづかい……足りないから」



僕「いくら持ってるの?」



女「百円……だけ」



小さな祭りだが、商品の値段が他と変わるわけじゃ無い。

最低でも三百円は無いと何かを買う事はできない。



女「……えへへ。やっぱり何も買えなかったか〜。残念だよ〜」



僕「女……」



女「せっかくのお祭りだけどさ〜。家ってほら……確か僕ちゃんには話していた……ね?」





118:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:33:02.05ID:UWojzoKZO

僕は彼女の昔を知っている。



早くから夫婦別居をし、長らく母と二人暮らしだったと言う事を。

今も昔も貧乏であまり贅沢などしてなかったと言う事を、確か彼女から聞いていた。



僕「やっぱり、今も?」



女「……うん。向こうにいた昔とあまり変わってないみたい。お母さん、本当は千円くれようとしていたけど……お金あるって言っちゃったから」



僕「……」



女「でも僕ちゃんとお祭り来ただけで楽しいんだよ?珍しい物たくさん見られるし、雰囲気だって……ね?」



そんなに一生懸命に笑わなくてもいい。

母親のために無理をする彼女の姿は簡単に想像ができてしまったから、余計に辛い。





120:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:38:56.51ID:UWojzoKZO

女「ほら、僕ちゃん何か買ってきなよ。ここで待ってるからさ?」



僕「嫌だよ、二人で行こうよ」



女「で、でも……見ると食べたくなっちゃうから……」



僕「女が食べたいの選んでいいよ。体が小さいから、半分こして一緒に食べようよ」



女「で、でもそれだと僕ちゃんのお金が……」



僕「大丈夫だよ。小さい時から小銭貯金とかしていて……今だって、昔の僕はちゃんと貯めていたんだからさ」



女「ほ、本当に……?」





121:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:44:17.12ID:UWojzoKZO

僕「うん。僕の千円は一緒に使お?貯金はあと二千円くらいあるから大丈夫だよ!」



女「いいの……?」



僕「うん。二人で食べた方が美味しいもの!」



女「あ、ありがとう……僕……ちゃん……」



僕「な、泣くなんて大げさだよ〜」



突然の涙に、僕は焦ってしまう。



女「ご、ごめん嬉しくてつい……あ、じゃあこの百円渡すから……」



僕「いらないよ。それは女が持っていて」



女「で、でも……」



僕「貯金があるんだから、任せてよ。ね?」



女「……うん、わかった」



彼女はやっと納得してくれた様子だった。



僕たちは自然に手を繋ぎながら、二人で屋台を回っていた。





122:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)01:51:45.82ID:UWojzoKZO

女「まずは何食べたい?」



僕「……かき氷がいい。値段も三百円で手頃だしさ」



女「うん、わかった!」



彼女には笑顔が戻っている。



よかった……と素直に感じた。



女「すいません、かき氷一つ下さい〜!」



「はい、三百円ね。シロップはどうするね?」



僕「ブルーハワイで」

女「イチゴで」



僕「……」



女「……」チラッ



僕「……えっとイチゴでお願いします」



小学生一年生の上目遣いは、ズルい。





124:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)02:05:11.12ID:UWojzoKZO

僕「座って食べようか」



女「うん!」



ベンチに座って、二人で一つのカップを握っている。

落とさないよう、しっかりと僕は……。



僕「食べなよ」



女「買ったのはちゃんなんだから、それは遠慮する〜」



僕「でもイチゴだよ」



女「……」



僕「食べる?」



女「うん……食べる」





126:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)02:18:12.81ID:UWojzoKZO

女「美味しいよ〜」



まだ夏でもないのに、彼女はとても美味しそうに氷を頬張っている。



僕「それはよかったよ」



女「はい、僕ちゃんも」



僕「ん」



当たり前のように、同じストローでかき氷を口に入れる。



僕(気にしない〜)



女「美味しい?」



僕「うん。イチゴ味も悪くないのかもしれない」



僕(かき氷なんて何年ぶりかな?懐かしいけど、よく覚えているようなこの味……)



僕「懐かしい」





127:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)02:25:10.93ID:UWojzoKZO

女「懐かしいって感想は変だよ?」



クスッと笑う彼女。

なんだろう、今日は特に笑われる事が恥ずかしいような気がした。



僕「いいんだよ、はい。残り食べていいからさ」



女「いいの?」



僕「体が小さいから、あまり入らないみたい」



男としてこの言葉を使うのはどうかと思ったが……。



女「じゃあ食べちゃうね〜?」



笑顔でかき氷を食べる彼女……これだけで僕は何だか満足だった。





128:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)02:32:43.01ID:UWojzoKZO

女「はい、ごちそうさま」



僕「じゃあ次は何が食べたい?」



女「んー……リンゴ飴、かな?」

僕「リンゴ?」



女「うん。大きくて美味しそうかなって……あ、僕ちゃんリンゴ飴嫌い?」



僕「ううん。好き」



本当は、リンゴ飴は買った事なんて無いけれど。



彼女が食べたいなら何でもいい。



女「えへへっ、それならよかったよ。すいませーん!」





130:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)02:41:59.72ID:UWojzoKZO

僕(リンゴ飴が三百円……まあ、こんなものかな)



女「おっきいよ〜。美味しそうだよ〜」



僕(まあ、嬉しそうで何よりだ)



女「ガリッ!」



僕「食べるの早」



女「飴の部分が余っていたからさ。ここだけ先にね」



僕「ああ……うん。まあ好きに食べたらいいよ」



女「えへへ、相変わらず優しいよね僕ちゃんってさ」



僕「……」





131:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)02:51:24.28ID:UWojzoKZO

先ほどの身の上話といい、僕は彼女の事情をその辺の人間よりは知っている。



そんな話をよく聞いていたからか、僕は自然と彼女を何かから守るような形になっていた。



僕が勝手にくっついていただけかもしれないけれど……。



女「リンゴ美味しい〜」



でも彼女も何かある度に、僕に話をしてくれていた。



最低限の信頼はされていた……いう事でいいんだろうか。

あまり自分の事に自信は持てない。僕はそんな性格だった。





132:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)02:56:22.52ID:UWojzoKZO

女「はい、僕ちゃん」



僕「ん……」



リンゴのような物体が半分、割り箸に刺さって渡された。



僕「……ガリッ!」



力いっぱいにリンゴを噛んでみた。



女「か、固くない?」



僕「ちょっとだけ……」



女「慌てて食べなくても大丈夫だよ。時間はまだあるんだから、ね?」



時間……ね。





133:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)03:01:34.73ID:UWojzoKZO

女「ね、時間大丈夫?」



僕「え、ん?」



女「よく考えたらお互い門限があったもんね。時間はたくさんあるって言ったけど……夜中まではいられないもんね?」



僕「それはそうだけど……」



女「ね、どうする。まだ買い物する?それともちょっとお散歩する?」



僕「買い物して、お散歩する」



女「ふふっ、ワガママ僕ちゃん」





134:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/08/02(月)03:09:19.37ID:UWojzoKZO

女「僕

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